閑話休題

 扨て、此処から本論に入ろう。我が国に於てマスメディアを仕切っているのは、ガリバーこと〝電通〟と言われているのだが、本来民放のテレビ局の後ろには新聞社が居て、その流れで現在広告料で賄っている所が殆んどである。然るにテレビ局ではNHKを除いて、民放の収益はCM放映料に依存して運営しているのが実態である。最近ネットでは有料配信をやっている所があるが、それは未だ一部の会社だけである。そこで此の度は「月刊日本」の中で『影の支配者・電通』より抜粋して公開したいと思う。

---電通を批判できなかったマスコミ---

 2,016年五月東京五輪招致委員会が、IOC(国際オリンピック委員会)の関係する口座に、二億三千万円を送金していた事実が明らかになり、カネで五輪を買ったのではないかと謂う疑惑が持ち上がった。この事件には電通が深く関与していたが、マスコミは電通の名前を伏せて報道していた。併し漸く電通の新入社員である、高橋まつりさんが疲労自殺した事を切っ掛けに、マスコミは同社の労働環境やパワハラ体質を報じるようになった。これまでごく一部を除き、マスコミが電通を批判的に取り上げる事はなかったのである。

 国民に正しい情報を伝える事を疎外している、電通という存在を今こそ徹底的に追及する必要がある。フランスのジャーナリストは「電通は、日本のメディアを支配しているのか?」と題する記事を発表した。そこでは、電通と博報堂が「広告・PR・メディアの監視を集中的に行い、国内外の大企業・自治体・政党或は、政府の危機管理を担当し、マーケットの70%を占有している。此の広告帝国が日本のメディアの論調を決定している。と批判する人々がいる」と、指摘されている。

 電通は、一貫して広告業界のガリバー的存在として君臨して来た。経産省の統計では、2,015年の国内広告業の売上高は5兆9249億円。このうち電通の売上高は1兆5601億円で、約26%のシェア握っている。電通は広告主の為に、テレビ・新聞・雑誌・交通広告等の広告枠を用意するだけではなく、広告の制作も行っている。更に、五輪を始めとする、イベント・PR・SP(セールスプロモーション)等を幅広く手掛けている。TVのゴールデンタイムスのスポンサーの割り振りを実質的にし切っているのは電通だ。依って、ゴールデンタイムスのCMを流したい広告主は、電通にお願いするしかないと謂う事だ。

 その結果、顧客に多くの大企業を抱え込んでいる電通は、テレビ番組の広告枠を「買切る」ことが出来る。これに因り、テレビ局に対して極めて大きな影響力を確保している。又電通は、大手新聞社、全国・地方テレビ局、その他、マスメディア関連会社に社長やトップクラスの役員を送り込んできた。メディアに対してこれ程の影響力を持っているからこそ電通は、不都合な記事を抑えたり、扱いを小さくしたりするだけの力を持っている。露骨な圧力を掛けなくてもメディアの側が自主抑制してしまう。原発報道はその典型的な事例だ。

 メディアに対する広告の力は、原発のみならず、安全保障や経済政策など、政府が進める政策に対する批判を、封じ込める役割を果たしている。小泉政権の郵政民営化を批判した森田実氏は、テレビ朝日の「報道ステーション」で、政権に対する厳しい批判を展開した。元経産官僚・古賀茂明氏、都知事選に出馬し、東京五輪批判を展開した上杉隆氏など、多くの評論家やジャーナリストが番組からの降板に追い込まれて来た。

 ところで、2,015年六月に自民党本部で開かれた、安倍首相に近い若手議員の勉強会「文化芸術懇話会」の初会合で、大西英男衆議院議員が驚くべき発言をしている。「マスコミを懲らしめるには、広告収入を無くするのが一番、……文化人、民間人が経団連に働き掛けて欲しい」此処には、広告の力に依ってメディアの報道が統制されてきた現実が、能く示されているのではないか。

---マスコミ取り込みを画策した電通---

 電通は、政治と関りを持つようになって以来、一貫して自民党と特別な関係を結んで来た。田原総一朗氏の『電通』によると、電通が初めて政治と関わったのは1,952年十月の事である。自由党の吉田茂は、マスコミの主流を占めていた、全面講和論を押し切って、サンフランシスコ条約を結び、日米安保条約に調印した。吉田としては、主権回復後最初の総選挙である。何としても圧勝する必要があった。其処で主要紙に大々的に広告を打つことにした。そのプロデュ―サー役を演じたのが電通だった。結局、吉田自由党のPR作戦は成功、過半数を超える242議席を獲得した。

 親米路線に舵を切る吉田茂は、常にアメリカにとって重要な政治局面で、メディア対策を任されて来たのである。電通は1,960年の安保闘争でも、岸信介政権の為に積極的に動いた。在京新聞社七社に依る、「議会政治を守れ」としたスローガンを掲げた社告が掲載され、反安保の盛り上がりを鎮静化させる役割を果たした。この社告を朝日新聞社の笠信太郎と共に主導したのが、電通の吉田英雄であった。更に吉田英雄は、反安保を主張するマスコミを嫌悪し、広告をストップさせ牽制させる事に依って、マスコミの論調を軌道修正させる事を検討していたと謂う。

 実際吉田は、マスコミ取り込みの手段として、財界とマスコミの交流の場として、「マスコミ懇談会」作っている。1,972年十一月、電通は、自民党関係の業務を強化する為に、自任党官公庁・政府系機関の専門部門として、「第9連絡局」を設置している。前年の都知事選では、美濃部亮吉と秦野章の事実上の一騎打ちとなった。自民党が推す秦野陣営の選挙活動を、電通が取り仕切ったが、敗北したことがその背景にあるとされている。

---「郵政民営化は正しい」というプロパガンダ---

 米国の〝年次改革要望書〟に沿う形で、郵政民営化を推進した小泉政権に於ても、電通は重要な役割を演じた。小泉総理は「改革なくして成長なし」「自民党をぶっ壊す」「聖域なき構造改革」等ワンフレーズ・ポリティックスをアドバイスしたのは電通だ。2,005年の郵政選挙の際には、日本市場拡大を狙うアメリカの保険業界が、拠出した巨額の資金が電通に流れ、日本国民に「郵政民営化は正しい」と、思わされる為の情報操作が展開されたと云われている。

 小泉政権では又、「国民の声を聞く」と称して、タウンミーティング(TM)が開始されている。2,001年度に48回のTMが行われ、総費用9億4000万円が全て電通に流れている。更に2,005年から2,007年に掛けて、裁判員制度のPR費用として、最高裁から電通に役八億600万円が流れ、最高裁--電通--マスコミに依る世論操作が露骨に行われた。各地で開かれる裁判員制度に関するTMの告知をし、ミーティングの内容を伝える記事とセットで、最高裁の広告を地方紙に掲載するという形で、裁判員制度の賛成の世論が形成されて行った。

 2,013年、六月の参院選挙を控え、電通は2,012年に自民党にネット選挙対応について提案した。之を受けて電通が、ネットを活用した選挙御活動を推進する特別チームとして、発足させたのが「トリルスチーム(T2)」である。「T2発足を主導したのは、電通出身の自民党衆議院議員・平井卓也」である。平井氏以外にも、自民党には中山泰秀氏・伊藤忠彦氏等の電通出身の衆議院議員が居る。安倍首相の妻・明恵夫人も電通出身者だ。更に、東京五輪誘致の為に、2,013年にブエノスアイレスで開かれたIOC総会での最終プレゼン企画に協力したのも電通だと謂う。

 現役の電通社員がJWJ代表の岩上安身氏のインタビューに答え、安倍首相が高らかに宣言した「アンダーコントロール」発言も、滝川クリステル「おもてなし」も、全て電通が用意したと述べている。欧米では「一業種一社」だが、日本では出来ていない。電通が巨大広告代理店になって行った、根本的理由は此処にある。今こそ公取は、電通の寡占状態を齎している歪な広告取引の状況に、メスを入れるべきである。

(43 43' 23)


國乃礎 鹿児島県総連合会

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